映画『殿 利息でござる』

 

この作品はタイトルと、ポスターのビジュアルとは違い、とても心に深く残ります。

コメディ要素たっぷりですが、人生の美しく崇高な使い方が描かれています。神戸新聞に拙稿しました。よければどうぞ。

 

『殿、利息でござる』

 

 

 

時代劇といえば、映画黎明期より、目玉の松ちゃんこと、尾上松之助に始まり、坂東妻三郎、市川雷蔵などのスター演じるヒーローが活躍するものだった。ところが、本作は、英雄不在の時代劇である。しかし、これが笑って泣ける爽快なエンターティメントに仕上がった。しかも実話だ。「武士の家計簿」の歴史家・磯田道史による「無私の日本人」収録の一編を中村義洋監督が映画化。

 

 

 

江戸中期、財政難の仙台藩は、民衆に重税を課し、年貢の取り立てや労役で人々は困窮していた。宿場町の吉岡宿。造り酒屋の十三郎(阿部サダヲ)は、町の行く末を案じていたが、町一番の知恵者である篤平治(瑛太)から、藩に大金を貸し付けて利息をもらうという、宿場復興の秘策を打ち明けられる。計画が明るみにでれば打ち首もの。それでも十三郎と仲間たちは、私財を投げ打ち、千両を集めるのだった。

 

人には、贅沢をしたい、栄誉もほしい、子孫に自分のしたことの素晴らしさを伝えたいという欲があるはずだ。しかし、日本には、昔からつつましさを美徳とする風潮がある。自律し、人様に恥ずかしくない自分でありたいという慎み深さと、自己顕示欲で揺れる人間臭さを、本作はコメディーの中に巧みに織り込んだ。十三郎らの秘策は、8年かけて見事に成功。その粘り強さもさることながら、後半の藩との攻防は、期待や不安に胸が激しく脈打つプロセスが、軽妙に描かれる。時代劇映画初主演となる阿部サダヲ、瑛太、妻夫木聡らのキャラクターもたっていてとても小気味いい。特に仙台藩の役人を演じる松田龍平の飄々とした面白さは見逃せない。

 

 

 

514日から公開中。

 

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2016年5月20日神戸新聞夕刊「銀幕かわらばん」掲載

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