映画「恋人たち」

 

「恋人たち」

 

 

 

今、日本で起きている不条理をテーマに、理屈に埋没することなく豊かな感性とともに人の絶望と希望を描く。数々の賞を受けた「ぐるりのこと。」から、7年ぶりとなる橋口亮輔監督作品である。

 

 

 

 

物語は3人のエピソードが交互に描かれながら進行する。

 1人は、3年前に妻を通り魔に殺され鬱屈した思いを抱えながら生きているアツシ(篠原篤)。2人目は、毎日を目的なく過ごし、皇室の追っかけをした際のビデオを見ることだけが楽しみという主婦、瞳子(成嶋瞳子)、3人目は、同性愛を世間に隠しながら生きるエリート弁護士、四ノ宮(池田良)。3人の日常が淡々と描かれつつ、理不尽なことがまかり通る世の中への絶望、世間の偏見や差別、法の不備、東日本大震災後の失望など、あまたな困難に巻き込まれながらも、生きていくしかない「今」を切り取っていく。

 

絶望に打ちのめされた時、人は様々な表情をみせる。アツシは誰とも関わらないように寡黙になり、怒りと喪失を押し込める。瞳子は、家で小説や少女漫画を描くことで現実逃避する。四ノ宮は、作り笑いを浮かべ自分の感情を遮断する。そんな3人が、時折見せる虚無の表情が恐ろしいが、誰の心にも内包されていることを彼らの行動が物語る。橋口監督のもと、ワークショップで即興演技の訓練を積んだ、ほぼ素人に近い俳優たちが、圧倒的な存在感を発揮している。

 

人は望まなくても、他者と関係を持ちながら生きていくしかない。しかし、時にそれは、自分が心の闇として抱えていたものをさらけだし、希望へつながるきっかけにもなる。

 甘い予感を抱かせるタイトルからは想像がつかないような、人間の根幹を描く作品である。

 

 

 

公開中。

 

2時間20分。

 

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201511月27日付け 神戸新聞夕刊「銀幕かわらばん」掲載

無断での転載・転用ご遠慮ください。

 

 

 

奥田さんの映画は最高に瑞々しかった。奥田さんが撮る場所には顔(表情)があって、人には血が流れていて、まるで映画そのものが一つの命を宿しているかのように、生温かい感触が伝わってきた。いわゆる「社会派」的な重いテーマを内包しながら、映画は一切の理屈に埋没することなく、豊かな感性とともに人が生きるとは何かを描いていた。

 

 奥田さんの映画は最高に瑞々しかった。奥田さんが撮る場所には顔(表情)があって、人には血が流れていて、まるで映画そのものが一つの命を宿しているかのように、生温かい感触が伝わってきた。いわゆる「社会派」的な重いテーマを内包しながら、映画は一切の理屈に埋没することなく、豊かな感性とともに人が生きるとは何かを描いていた。