「アリスのままで」

この映画を見ている間、自分がもしそうなれば…とか、家族がこうなってしまったら…とか、フィクションとして見られない自分に遭遇しました。それほど、俳優たちの演技が素晴らしかったともいえます。神戸新聞のコラムに掲載されました。

よければお読みいただき、是非映画館へ。



「アリスのままで」

 

「私」とは記憶があるから「私」なのだろうか。意志を持って考え行動するから「私」なのだろうか。世界で800万部を超えるベストセラー小説を基に、避けられない運命と闘う女性と家族の物語を描く。共同監督の一人、リチャード・グラッツァーは本作の企画を進めている段階でALS(筋萎縮性側索硬化症という難病に犯され、これが遺作となった。

 

50歳のアリス(ジュリアン・ムーア)は言語学の大学教授としても、3人の子供の母としても充実した人生を送っていたが、突然異変が起こる。講義中に大事な単語が出てこず、慣れたジョギングコースで帰り道がわからなくなる。若年性アルツハイマー病だった。

 

この病気は人生の半ばにして、人としての知性が失われていく。主人公は言語学を専門にしているために、絶望も人一倍だろう。また、家族の精神的、経済的ダメージも大きい。うろたえる夫(アレック・ボールドウィン)が、仕事と看護の板ばさみで苦しむ姿は痛々しい。

 

病気が進んでいく過程で、アリスが世界をどのように見ているかをカメラのアングルや逆光を利用しながら観客に体験させる。特にランニング中に迷子になるシーンの不安定なカメラの動きは、アリスの不安な心模様をそのまま写しとっていて、見ている私の鼓動も激しくなった。

 

病気の進行が進んだアリスがある日、自分のパソコンを開く。そこには元気で知性豊かな自分が登場する。そんなに時間はたっていないはずなのに、表情が乏しくなった今の姿との違いにがくぜんとする。ムーアは、そのリアルな演技が評価され、本作で今年度アカデミー賞主演女優賞に輝いた。

 

627日公開 101

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神戸新聞 2015年7月3日(金)夕刊

「びびっとシネマ」掲載

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